狸の巻物 神社・神話の巻
神代の物語2. 禊祓
(みそぎはらえ)
黄泉の国へ旅立つ伊邪那美命と三貴神の誕生
神々の系譜はこちら。
- 最後に生まれた、火の神、迦具土神(かぐつちのかみ)。その炎の固まりを産んだ母の体は無事ではすまされませんでした。
伊邪那美命は陰部を焼かれてその命を失ってしまうのです。
注)神も死ぬのですね。それにしてもすごい死に方です。
- 嘆き悲しんだと同時に怒った伊邪那岐命は、手にした十握剣で産まれたばかりのわが子、迦具土神の首を切り落としてしまいます。そして、亡き妻を連れ戻すために黄泉の国へ。
注)首を切り落とされた迦具土神ですが、その血から武甕槌神(たけみかづちのかみ)など様々な神々を子孫として残すことになります。これもまた不思議な話ですね。
- 黄泉の国で妻と再会することができた伊邪那岐命は、伊邪那美命に再び現世へ戻ってくれるようにと頼みます。
しかし、すでに黄泉国の食事をとってしまっていたので現世には戻れない決まりになっていた伊邪那美命ではありましたが・・・。
注)黄泉国の食事・・・これを黄泉戸喫(よもつへぐい)と言います。この禊祓(みそぎはらえ)のコンテンツを作っている最中にあるホラー系のミステリーを読んでいたのですが、まさしくこの話が紹介されていました。それは三津田信三作の蛇棺葬という本で、「慎(ゆめ)黄泉つ竈(よもつへ)の火の物を食うことなかれ・・・」という文とともに、それを食べてしまうと現世に戻れず死者の国の仲間になってしまうことが書かれています。戦慄のストーリーですがなかなかの傑作です。(05/07/09追記)
- 黄泉神と相談してみるとなんとかなるかもと言って殿内に入っていきます。
その時、伊邪那美命は「決して中を覗いて見ないでください」と言い置いていたのですが・・・
あまりに遅いので待ちくたびれた伊邪那岐命は、櫛の柱をかいて火をともし、中を覗いてしまいました。すると・・・
注)見たな〜!!!よくある話、これが原点なのですね。鶴の恩返しとか・・・。いわゆる「見るなの禁」です。
しかし、こんなケースでは男は必ず待ちきれずに見ますね。タヌポンもきっと見ます。神様だって見るんですからね。
- 見ると、伊邪那美命の身に蛆がたかり、頭や胸、腹、手足には八雷神が居座っていたのです。
八雷神とは8種類の雷(いかずち)の神を指しています。
黄泉の国とは、基本的に穢れた汚い国であり、死者がはびこっているところなのです。
- びっくり仰天して伊邪那岐命が逃げ帰ろうとすると、伊邪那美命は恥をかかされたことを恨んで、黄泉国の軍隊や八雷神を差し向けて追ってきました。
最後には黄泉平坂(よもつひらさか)という黄泉の国と現世との境目でついに追いついてしまいました。
ここで激しい言い争いを展開することになります。
注)こうなってしまっては、もう復縁はムリでしょうね。
- そこに現れたのが、黄泉の国の番人である黄守道者(よもつもりみちひと)と菊理姫神(くくりひめのみこと)。
菊理姫神は、まあまあと両者をなだめ調整し、うまくその場を収め、黄泉平坂を千引岩(ちびきのいわ)で塞いでしまいます。
- 二神はその岩越しに対峙して次のように言い合って別れることになります。
伊邪那美命は「あなたの国の人を一日に千人絞め殺しますよ」。伊邪那岐命は、「それならわしは一日に千五百の産屋を立てようぞ」
一日に1000人死に、1500人生まれる、つごう500人増える勘定です。
- これが人間の寿命が定まったという神話になります。このときから伊邪那美命は死の国の神、人間の寿命を司る神となりました。
伊邪那岐命のほうはなんとか無事に黄泉の国を脱出することができたというわけですが、結局、徒労に終わったということですね。
さて、これからが禊祓(みそぎはらえ)の本題
- 現世へ戻ってきた伊邪那岐命ですが、不浄な冥界黄泉の国へ行ったままの体のせいか、何となく気分がすぐれません。
そこで厄払いというのでしょうか。筑紫の日向(ひむか=宮崎県)にある橘の阿波岐原(あわきはら)の小門(おど)というところでお払いをします。
これが禊祓です。
- 清涼な水流の中で、身を清める儀式です。その禊祓の最中になんとも不思議なことが起きました。
それ以前にも、脱いだ衣服のひとつひとつから神々が現れているのですが・・・。顔を洗おうとすると・・・。
- 伊邪那岐命の両目と鼻からなんとあらたな神が生まれてきたのです。
- 左目から生まれたのが天照大神(あまてらすおおみかみ)、
右目から生まれたのが月読神(つくよみのかみ)、
鼻から生まれたのが素盞鳴尊(すさのおのみこと)。
ようやく、神話の主役の登場です。男女の交わりからではない誕生なのですね。
- 彼ら三神の持つ能力はバツグンで、伊邪那岐命は、天照大神には天(昼)を、月読神には夜を、そして素盞鳴尊には海を、それぞれ統治するように命じました。
- とくに天照大神には御頚珠(みくびたま)という首飾りを授けられました。これは高天原の支配者としてのシンボルでもありました。
- この三神は三貴神、または三貴子と呼ばれ、かくして、これからの日本の神話を語るうえで欠かせない存在となっていくわけです。
注)この三貴神の誕生や統治領域等については記紀により若干の相違がみられます。
(05/06/15) (05/06/16追記)
神代の物語3. 誓約(うけひ)へ続く。