つれづれ道草

すべてはどこかで繋がっている...

第7段 旋律の魔術

今回は音楽のクイズを出してみよう。まず、

Q1.以下の譜面の音階のイントロ(歌い出し)またはさびをもっている曲の曲名は?

譜面

かりに、♪ランランラン、ランランラン・・・♪というハミングで唄ったとしたら、あなたはどんな歌を思い浮かべるだろうか

譜面が読めない人でもこれは簡単だ。同じ音階が続くだけ。
高いほうのミの音を、ミミミー、ミミミーと続けるだけである。
こういうクイズがもう20年も前だったろうか、わたしの周りで話題になった。

ここ10年の新しい歌はあまり知らないので、他にこんな旋律の曲があるかどうかは知らない。それを抜きにして考えると・・・。

よほど歌に縁のない人でない限り、この答えは、ほぼ2つに集約される。
その2曲の冒頭の2小節は、キーの高低は別としてメロディがまったく同じ音階だから、不思議である。

その2曲とは?

現在の年齢でわたしくらい以上、まあ50歳以上はほぼそれを「青い山脈」と答える。
そして、もうひとつの回答・・・もっと若い人なら「ジングル・ベル」と応える。クリスマスの歌という人もある。

どちらもあまりにも著名な曲である。少し口ずさんでみよう。
♪ランランラン、ランランラン・・・♪
まったく同じである。この直後からひとつはさらなる楽しさ、もうひとつは哀愁の旋律へとガラリと変わる。

「青い山脈」と答えた人はそのほとんどが「ジングル・ベル」も知っているのだが、どうしても「青い山脈」のほうを先に思い浮かべてしまう。あとでこの年齢診断を聞き、ちょっといやな思いをする。女性はとくにそうである。

「ジングル・ベル」と答えた若い人は「青い山脈」をまず知らないだろう。
「ジングル・ベル」と答えた年輩の人はこの問題の意図をすでに知っている。

必ずしも一致しない歌詞とメロディの記憶

では、次の例は音程はまったくちがうが、ひとつはイントロ、もうひとつはさびの部分の歌詞が一致しているものだが・・・。

Q2.♪あめあめふれふれ・・・♪
さてそれぞれ何という曲だろうか

八代亜紀とすぐ思い浮かぶ人は演歌ファンだろう。「雨の慕情」という大ヒット曲のさびの部分である。
童謡のほうしか思いつかない人は10〜30代の若い人かカラオケ・演歌嫌いの人かも知れない。

続いて、

Q3.童謡のほうの「あめあめふれふれ」の曲名はわかるだろうか?

童謡や唱歌にはメロディも歌詞もよく覚えているのに曲名がわからないというケースが意外と多い。
「あめ」「あめあめふれふれ」「おむかえ」「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ」「らんらんらん」・・・
さて、どれだろうか?

実は、どれでもない。
この歌の題名は「あめふり」である。

あまりにシンプルすぎる解答に、ちょっと意外性を感じてしまう。
作詞は北原白秋なのだが、題名を付けたのは作曲した中山晋平かも知れない。 単純な題名は、童謡などにはむしろ多いような気もする。

ほかに同じ童謡や唱歌を歌うときにわたしが面白いと思ったものがある。
「小さい秋見つけた」という、サトウハチロー作詞、中田喜直作曲の曲。
♪小さい秋、小さい秋、小さい秋、見つけた・・・♪
というメロディがなんともいえない名曲である。
では、

Q4.この歌を歌詞を見ないでイントロから歌ってください

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どうだっただろうか。
2人に1人はまちがえたのではないだろうか。

すなわちこの歌のイントロは、

♪誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが 見つけた・・・♪

であり、これの直後に大好きな

♪小さい秋、小さい秋、小さい秋、見つけた・・・♪

と続く。

気がついたときはもう手遅れで、仕方なく気落ちして小さい秋ばかり6回繰り返して唄ってしまう人も多いはずだ。
「小さい秋」を唄いたいばかりにあせってしまうと、とても気まずい思いをするのでご注意いただきたい。

雨の歌いろいろ

さて、また話はあめふりに戻るのだが、

Q5.イントロが「雨(あめ)」ではじまる歌をあなたは何曲知っているだろうか?できるだけたくさん挙げてください

調べてみると、これが、あること、あること。
ある検索サイトを見ると、プロ歌手が歌っているものだけでもヒット曲でないものを入れると約170曲も見つかった。実際はもっとあるだろう。四季のある日本、雨はわたしたちの暮らしに溶け込んでいると言えるだろう。

そのなかでわたしが歌詞カードさえあれば歌える(うまい下手は別)曲は、「あめふり」を含めて次の17曲もある。

曲 名 歌手名 歌い出し
* 長崎の夜はむらさき 瀬川瑛子 雨にしめった賛美歌の
雨のブルース 淡谷のり子 雨よ降れ降れ
硝子の少年 kinki kids 雨が踊るバス・ストップ
* 京のにわか雨 小柳ルミ子 雨だれがひとつぶ頬に
夢は夜ひらく 園まり 雨が降るから 逢えないの
* モナリザの微笑 ザ・タイガース 雨がしとしと日曜日
* 結婚するって本当ですか ダ・カーポ 雨あがりの朝とどいた短い手紙
* 大阪恋めぐり 増位山・日野美歌 雨の大阪御堂筋
* 雨が止んだら 朝丘雪路 雨が止んだらお別れなのね
* 三善英史 雨に濡れながら たたずむ女が
* あなたのブルース 矢吹健 雨が窓を打つ 私の胸を
* 愛燦燦 美空ひばり 雨潸々と この身に落ちて
* 東京の灯よいつまでも 新川二郎 雨の外苑 夜霧の日比谷
* 城ヶ島の雨 童謡・唱歌 雨はふるふる城ヶ島の磯に
童謡・唱歌 雨がふります 雨が降る
あめふり 童謡・唱歌 雨雨ふれふれ かあさんが
雨降りお月 童謡・唱歌 雨降りお月さん 雲の上

最近の歌はほとんど覚えようとしていないから、ヒット曲でもっと著名な歌がほかにたくさんあるかも知れない。

雨とイントネーション

Q6.さてこの17曲の曲名の頭に*印をつけたものとそうでないものがある。何の分類かわかるだろうか

いまからテーマとするのは、雨の発音、イントネーションである。
ちなみにこの17曲で[áme]となるものに * 印をつけた。
残りは[amé]もしくは抑揚のない[ame]の発音で、このほうの曲は少なめだ。
おそらく170曲ある歌も調べてみると、圧倒的に[áme]が多いのではないかとわたしは推測する。

どうしてそう思うのか。
歌をプロデュースするのは東京中心だからである。
東京など関東地方は雨を[áme]と発音する。
作曲家が関東出身なら当然だし、そうでなくとも東京言葉を基準に作れば高い確率で雨という歌詞がある部分の音階は[áme]と下がるメロディになると思う。

雨のイントネーションをとくにここでとりあげたのは・・・。
わたしは北陸金沢生まれで、東京に出てきたとき、「東京弁」と自分の国訛りが明らかにちがうと最初に感じたのがこの雨のイントネーションだった。金沢で雨を[áme]と発音すると「よそもの」だとすぐわかってしまう。
学生時代、夏休みで里帰りし郷里の友人とあっていて試しに[áme]と発音してみると、間髪を入れず「東京人ぶって」とひやかされたものである。
金沢は雨が多い。夏以外はいつ行っても3日に1度は必ず雨が降る。冬も雪よりむしろ雨が多い。雨がまた降ってきた・・・という会話は日常茶飯事だ。この地で手っ取り早く東京人を気取るには[áme]の発音一発で済むのである。

また、[amé]と発音する関西圏、近畿地方出身のグループであるkinki kidsの硝子の少年「雨が踊るバス・ストップ〜」の「雨」は、ちゃんと[amé]となっているのがおもしろい。作曲家も関西出身なのだろうか。

さて、この雨のイントネーションからわたしはこんなことを推理してみた。

さきほどの17曲のなかで童謡・唱歌が4曲ある。
そのうち城ヶ島の雨以外はみな東京アクセントではない[amé]もしくは[ame]のほうである。
そしてそのうちの「あめふり」と「雨降りお月」は2曲とも同じ作曲家中山晋平の曲である。

とすれば、中山晋平は東京など関東の出身ではなく、わたしと同様の北陸か関西の生まれではないかと思ったわけである。

調べてみると長野県下高井郡新野村(現在中野市大字新野)出身とあった。

長野県出身の知り合いに雨の発音を聞いてみると残念ながら[áme]ということらしいが、ある地域では逆の発音のところもあると聞いた。現在の中野市新野地区がそうなのかどうかはわからない。

もし、中山晋平が故郷で[amé]もしくは[ame]で話していたとしても、この2曲は彼が東京に出てきて10年以上も経ってから作ったもので、そのころはもうわたしのように彼も東京弁で[áme]と言っていたとも思われる。

でもそれならなおのこと、彼の2つしかない雨という歌詞で始まる曲がいずれも[amé]となっているのは、
意図的にそうした、つまり東京の[áme]とはあえてしなかった
としか思えないのだ。

凡人ならともかく、音に鋭敏なこの天才作曲家が、東京人の間に長くいて[áme]の発音に気がつかなかったとは考えられない。

ということはやはり彼の故郷での雨の発音は[amé]もしくは[ame]ではなかったのか、とわたしは推測せざるを得ない。
郷愁、童心をくすぐる歌はやはり生まれ育ってすぐ覚えたイントネーションの旋律でというのが妥当ではないだろうか。

もしそうだとすると、いやそうでないとしても、まさに旋律とはそれを聴く者を異次元感覚にいざなう魔術をもっていると言えそうだ。

※ 「あめふり」は中山晋平記念館のサイト(晋平の作品紹介)からも聞くことができます。

(10/01/09追記) (04/10/09)

番外/いま10月9日午前4時、外は大雨、超大型台風接近。こんな雨は困りものである。

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