第16段 2品の法則
これはわたしが発見し、名づけた法則である。
レストラン・居酒屋・大衆割烹・・・なんでもいいが、料理を提供する店に入りランダムに2品を注文する。
そのどちらもそこそこおいしければその店の料理はすべて(注)おいしい、というものである。
この逆も真である。
すなわち2品選んでそれがどちらもまずければその店の料理はすべて(これも注)まずい、と言える。
もちろん(と声高に言うことではないが)、証明などできない。
あくまでもわたしの経験からの仮説である。
さて「すべて」に注釈をつけたが、これはどんなにおいしい店でもなぜかしら1品だけまずい品がある場合が多いからである。
逆にどんなにまずい店でも1品はおいしいものがあるときがある。(ない場合も無論、多いが)
これがクセモノで、最初に、本来まずい店の唯一のこのうまい1品にだまされるととんだ目に会う。
だから2品、注文してみないとわからないのだ。
1品頼んでまずい、もう1品追加してやはりおいしくなければその店にはもう行く必要がない。
最初の1品目がおいしくなくても追加の1品がこれは!という場合、つまり1勝1敗だとめんどうだがもう1品、味見する必要がある。その1品の判定でうまい、まずいのどちらかが2ポイントたまる。それがその店の正しい評価となる。
どんなうまい店にも1品まずいものがある(傾向がある)。
逆にどんなにまずい店にも1品だけうまいものがある(場合もまれにある)。この傾向は、表題の「2品の法則」ほど確実性は高くないのだが「1品の法則」と呼んでいいかも知れない。
実際、とてもおいしくてリーズナブルな店だけどこの「1品の法則」にあてはまる店をいくつか知っている。
これはその店の料理人の守備範囲に起因する。
東京月島にあるとてもおいしい居酒屋さんで、日本酒の種類の豊富さも見事なら肴も珍品ばかりという店がある。ところがそのメニューのなかで1品だけ、これはどうしたの、というものがある。おしんこだ。こればかりは多忙で自力で漬けている余裕がないのだと想像する。そのマスターが自ら作れば絶品のものにできあがるにちがいないと思うのだが意外と苦手なのかも知れない。ではメニューに加えておかなければいいのに、と思うのだが、居酒屋なのに漬物がないのはさすがにまずいだろうということから仕方なくできあいのものを適当においたのだろう。なくてもいいのに。
またある定食屋は驚くほど安い店なのだが、優にその値段の倍以上の価値があると思われるおいしい家庭料理をそろえている。しかし、1品、野菜炒めだけがいただけない。厨房を見るともなしにのぞいてみると大きなフライパンがない。これではダメだ。インテリアなどおかまいなしのごく庶民的な店であるゆえに、つい気安く注文されがちな野菜炒めというメニューははずせなかったのだろう。ちなみに炒め物はこのメニューだけ。肉野菜炒めやニラレバ炒めなどはない。ちゃんと不得意は先刻、承知なのだろう。
このように、1品だけは例外があることが多いので、できれば別系統の料理でそれぞれ1品ずつ都合2品は試してみる必要があるのだ。
リーズナブルな、というのはもちろん値段のことである。
わたしは基本的に高い店がうまいのは当たり前、と思っている。これは声を大にしていいたい。何万円も払わされてまあまあか、という店など2度と行きたくない。ましてや平均以下、まずい店などは論外である。
また、高級食材ばかり使用した料理ばかり自慢している店なども、気に食わない。安い食材で、安い値段で絶品の味をつくる、そんな気概を料理人は持ってもらいたいものだ。
話はそれたが、要するに、この法則は、料亭、高級割烹などは対象からはずすということだ。だいたいわたしなどの庶民がそんなに行けるものではない。もっとも料亭などは食べることが主目的の店ではないようだが・・・。
さて、うまい、まずいは個人差があるではないか?という人がいるかも知れない。
また、空腹にまずいものなし、という観点はどうするのかという人もいるかも知れない。
こういう人には残念ながら申し訳ないけどここで論議からお引取りいただくしかない。
わたしがまずいといっているのにあなたがその品をおいしいと思うのなら、あなたのほうが幸せだ。どうかその店を大切にしてあげてほしい。
なんか嫌味な言い方で本意ではないのだが、そう言うしかない。皮肉ではなく、「きみはなんでもおいしく食べられて幸せだね」と言うことがあるけれども、わたし自身、まずさを感ずることができる自分でよかったとも思っている。
うまい、まずいがわかるほうが、うまいものがよりうまく感じられるからだ。
それでも、すべてのものが等しく十二分においしく感じられる人がいるならそれはそれで幸せかも知れない。
すべてがおいしいのは結構だが、口にするものすべてがまずく感ずるのはこれは不幸というしかない。風邪など引いたとき、病気のときはだれでもそうなるからね。
(05/03/12)