つれづれ道草

すべてはどこかで繋がっている...

第13段 ほろ苦いブレンド

上京2年目ではまだまだおのぼりさんである。
コーヒーについて、ほろ苦い思い出がある。

当時、まだコーヒー専門店というものがない時代だったが、ようやくいくつかの種類の豆を選べる店が少しずつ増えてきたときだった。(スターバックス・ドトール全盛の現代とは隔世の感がある)
その種類自体は現在とさほどかわりはない。
有名なのがブルーマウンテンでやはりほかのものより少々高かった。あとキリマンジャロ、モカなど。

大学1年の入学したての頃だったか、知り合って間もないクラスの友人とおそらく大学近くの喫茶店に入ったときである。
東京出身の彼が、「モカかブレンドになりますけど」というウェイトレスの案内に、即座に「おれ、ブレンドでいいや」。
わたしはとまどいながら、「モカ」。

ブレンドというのが何なのか知らなかったのである。
ただ、東京人の彼がさりげなく注文したせいもあってか「ブレンド」という言葉の響きがとてもかっこよく聞こえてしまった。
そしてそれがコーヒー豆の種類のひとつであるという勝手な解釈をしてしまったのである。

この誤解が、数日後にたいへん恥ずかしい出来事を起こしてしまった。

何日かして今度は3、4人で別の喫茶店を訪れた。そのときは先日の彼はいなかった。
わたしにとって不運なことは、その店がかなりコーヒーについては当時、先端的な店であったことである。
ブルーマウンテンはもちろん、キリマンジャロ、モカ、サントス、コロンビア、マンデリン・・・何種類ものメニューを誇らしげに飾っていた。
そして、それゆえに、ブレンドがなかったのである。

当時の人気タレント(だれか忘れたが少しあとの南野陽子あたりかな)に似た素敵なしかし、あまり愛想はよくないウェイトレスがオーダーを取りに来た。
何にしようかな、と皆同程度の知識しかない連中ではあったのだが、それぞれブルーマウンテン以外のものを注文した。そして、わたしは・・・。
「ブレンド」

ウェイトレスは明らかに蔑んだ目をして即座に、
「うちはブレンドは置いてないんですけど・・・」

すぐ別のものに変えればよかったのだ。
しかし、わたしは小生意気なウェイトレスを見返して、しつこく食い下がった。
「なんだ、ブレンドがないの、ここ専門店じゃないの?しょうがないなあ・・・おれブレンドがいいんだけどなあ」

若気の至りであった。

みんな黙っている。地方出身の野暮な男ばかり。コーヒーの知識はわたし同様だったのかも知れない。フォローのしようがなかったのだろう。
ウェイトレスはあきれたような表情になり、小ばかにするような口調で、
「ブレンド、おつくりしましょうか!」

さすがのわたしもなにかヘンだと感じた。つくれるんならはじめからあると言えばいいじゃないか。ん?つくるってどういう意味?
いやな予感がしたが、もう戻れない。

「はい」
と急におとなしくなって、か細くわたしが答えると、ウェイトレスは何も言わず靴音を高くして去っていった。

あとでレシートを見ると、ほかの仲間が頼んだメニューより50円ほどその「ブレンド」には高い値段がついていた。ブルーマウンテンと何かを混ぜたのであろうか。

「ブレンド」コーヒーの正確な意味を知ったのはそれからだいぶ経ってからであった。
いまでは、そんな店はすっかりすたれてブレンドばかりだが、その名を口にするとほろ苦い思いがする。

(04/11/01)

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参考文献